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図版 030と 031 ランパンの乗馬者の像   NEXTnext-図版 031
   

図版 030と 031 ランパンの乗馬者の像

○ パロス島産の大理石で 出来た像である。パリのル-ブル美術館 Louvre(収蔵品 No.3104)と アテネのアクロポリス美術館(収蔵品 No. 590)とに収蔵されている。
○ アクロポリス美術館に蔵置されている 首と手のないトルソの この部分像は、その高さが 81.5 cm.( 2.8 ft. )に達する 略々等身大の乗馬者像で、アテネのアクロポリスの丘の上で  1886 年に出土したが、その 11 年前に これ又同じ丘の上で、高さが 29 cm.( 11 inch 1/2)の有髯の頭部像が 一つ出土しており、ランパン Rampin という個人の収集品から ル-ブル美術館に齎らされたのであって、この頭部像が乗馬者像の一部である事実を 初めて認めたのは、イギリスの考古学者のハムフリ-・ペイン Humfry Payne であった。ル-ブル美術館では 現在は実物の頭部像が、アテネにある乗馬者像の 焼き石膏で作られた塑型にくっ付けられている。

○ 馬の頭が 少し許り右の方に回っているのに対して、騎乗者の頭は これとは対照的に左方に回され、乗馬の行動をとって 幾らか前屈みになっている。両手を拳に握って 両太腿の上に置き、斜交(はすか)いに貫いた孔を通ったブロンズ製の手綱を その右手で執っていた。馬も騎乗者もどちらも 力強く且つコンパクトに作られている。騎乗者の両肩も背中も胸も 幅広く出来ていて、背中は どちらかと言えば扁平である。この工匠は、背骨を幅の広い窪みとして、肩胛骨を単純な弯曲線として、そして肋骨の骨組みの両端を 尖ったオバ-ル形に表現したのである。

○ 表情に富んだ 生き生きとして個性的な顔には、両眉が掃くようにさっと走り、両瞼は鋭く刻まれていて その間にア-モンド形の両眼がある。しっかりした両唇を僅かに窄めていて、顔全体の表現は 大胆で、彫刻は率直である。美しい木蔦模様の花輪で飾られた頭髪の描写が 非常に装飾的で、この頭部像は そのために際立っている。頭髪のスタイルは、珊瑚の形をした巻き毛状になっており、中央で両側に分けられて 両側に垂れ落ち、背面では 通常の巻き毛になって垂れているが、両耳の後ろではふさふさとして垂れ下がって、襟首の所で 水平にカットされてしまっている。耳に被さった頭髪は 両端を巻いてカ-ル状にした S字型のビ-ズ玉で出来た 太い紐のようになって、飾り輪の下から喰(は)み出している。しっかりと形の整った オバ-ル形の短い顎髯は、境目がきっちり剃り込まれており、小さいビ-ズ玉をびっちり敷き詰めた形で 表現されていて、両頬と顎の周りを この顎髯が縁取っている。この頭部像の当初の姿を ありありと心に描き出すためには 口髭に着色が施されていたことを追加して考えて置かねばなるまい。アクロポリスの多孔性石灰石で出来た破風には、B.C.560 年頃に作られたゼウス神の像があって 王座に即いており、オリムポスの山上で ヘラクレスを神々の座に加える貌(さま)が描かれているが、この騎乗者像の一つ一つの形の 繊細で鋭い構成と芸術的な髪型とは、このヘラクレスの神格化を描いた破風(アクロポリス美術館の収蔵品 No.9 + 55)の ゼウス神の像を想い起こさせるのである。この騎乗者の像も亦、B.C.6 世紀の半ばより少し前のこの時代に、アッテイカ地方の優れた巨匠の手になった作品に違いない。他にも同じ巨匠が彫刻した作品と信じられているものが、幾つかあり、その中では アクロポリスの丘で出土した キトンとペプロスとを着たコレ-の立像(図版 43 から 45 まで)が 一際優れて貴重な作品なのである。

○ この騎乗者の像に加えて、もう一つの騎馬の彫像で この第一のものとは逆さま向きの 対になったものの遺物も亦、幾つか 同じアテネのアクロポリスの丘の上で出土している。この 2 つの人物像は、一緒になって 一つのグル-プ像を形成していたものであった。蔦の花輪から判断すれば、この二人はどちらも 騎馬競走の勝利者であったに違いない。その外見の風采、奉献されていた場所、及び一つの芸術作品としてもこのグル-プ像が 貴重なものであることから見ても、この一対の像は、アッテイカ地方の貴族のものであったに違いないことが知られる。この二つの騎乗者の像が、僭主ペイシストラトス Peisistratus(訳注 1)の二人の息子の ヒッピアス Hippias(訳注 2)とヒパルコス Hipparchos(訳注 3)の記念像であったと推測されて来たのは、正にその故であり、恐らく間違いないものと思われる。

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