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図版 016 から 019 まで コルフ島にあるアルテミス女神の神殿西破風の彫刻群   NEXTnext-図版 017
   
図版 016 から 019 まで コルフ島にあるアルテミス女神の神殿西破風の彫刻群

○ コルフ島 - コルキュラ島 Korkyra(訳注 1)- の美術館に収蔵されている。
○ アルテミス女神のこの神殿は、 1910 年から 1911 年にかけて発掘された。そのあった位置は現在の町の西方であり、ドリア式のスタイルで建てられた 大きいペリプテロス peripteros(訳注 2 -周囲に柱を建て連ねた建物)であった。内陣を取り囲んでいるコロネ-ド colonnade(訳注 3 -柱廊)には、両側面沿いに夫々 16 本 両正面には夫々 8 本の円柱が立っていた。神殿の面積は 奥行き 47.89 m.( 158 ft. )、間口は 22.41 m.( 75 ft.)に及ぶ寸法であった。破風は 2 つとも長さが 22.16 m.(74 ft)、高さは中央部で エンタブレイチュア entablature(訳注 4 -長押 -なげし)を含んで 3.15 m.( 10 ft. 6 inch)であった。この神殿は黄色っぽい石灰石で作られており、浮き彫りにも同じ素材が使われていた。浮き彫りが出土した時には その落下した場所で上下が逆(さか)さまになっていた。彫刻群用として用いられていた石灰石は 建造物の各部に用いられたものと比較して、一段と肌理(きめ)の細かいものであった。

○ 有翼のゴルゴンの像が 破風の中央に巨大な姿をみせていて、その高さは 2.79 m.( 9 ft. 3.5 inch )であった。片膝を地面に着け 他方の膝は直角に曲げるというこの姿勢の一般的な解釈は、速く走っている動作を示す ア-ケイック期のシンボルであった。人に畏怖を起こさせるようなその顔を正面に向けており、歯を剥き出し 舌を伸ばして、恐ろし気ににやにやと笑う貌(さま)で 神殿に近付く人すべてを迎えているのであった。毒蛇と頭髪の巻き毛とが 額の上でカ-ル状になっており、他にも首の周りに毒蛇がいる。襞のない短い上衣は 元は赤色に着色されており、両顎をぱっくりと開いた 2 匹の有髯の毒蛇が お互いに向かい合い、ベルト状になって 腰の周りを締め付けている。クリュサオ-ル Chrysaor(訳注 5)とペガサス Pegasus(訳注 6)の二人は ゴルゴンの息子どもであり、ペルセウス Perseus(訳注 7)の剣でゴルゴンが突き刺された時に その頭から跳び出したと神話では伝えているが、破風のゴルゴン像の左右には その 2 人が立っている。2 人はずっと小さい像で、ペガサスの方は遺物が殆ど現存していない。ライオンと豹との合いの子の 猫科の大きい動物が この 2 人の隣りに夫々蹲(うづ)くまっている。ゴルゴン自身の眼差しと同様に その陰険な眼差しが、神殿に近付いて来る人々の方に向けられていた。人に畏怖を起こさせるこれらの動物は、因襲的な管理者であったのであり、魔力を持ったその力を使って 礼拝像とそれを安置してあった神殿とを守護すべく、この場所に掲げて置かれてあったのである。像が幾つも中央に勢揃いしていて 大変印象的であるが、それに続く側面には 一段と小さい群像が 2 組あり、その何れもが ギリシャ神話の中の劇的な場面を描いたものであった。そこに描かれた主題は 幾世紀にも亘って 幾度もギリシャ芸術の中で心に思い起こされ、ギリシャの工匠たちの手で作られた その最も卓越した作品の内の幾つかに霊感を与えたものであった。ゼウス神がギガ-ス族に向かって 雷霆を振り翳(かざ)している貌(さま)が右側に描かれていて、このギガ-ス族は片膝を付いて ぐったりしてしまっている。トロイの包囲攻撃の中の決定的な場面が左側に描かれていて、ネオプトレモス Neoptolemus(訳注 8)がプリアモス Priamos(訳注 9)を 槍で殺害している。破風の先細りになった両隅に横たわっているのは 傷付いているか又は死亡した兵士の像 2 つであって、右側はギガ-ス族であり 左側はトロイ人である。

○ この破風には 芸術的な纏まりが欠けている許りでなく、主題となっている事件についても 統一が見られていない。像もグル-プ像も ア-ケイック期の仕来たり通りに 一列になって並んでいて、お互いには 何等の関連も持ってはいない。コルキュラ島がコリントに属していたことから見ると、この作品は コリントの秀れた工匠の手になったものと見られており、仮令(たとえ)この群像が その迫力と力強さという点で B.C.5 世紀のダイダリック期のスタイルと何らかの繋がりを持っているとしても、この破風は B.C.6 世紀の初め頃に作られたものである。

○ アルテミス女神のこの神殿の東正面の破風の方は 今ではほんの僅かな断片が現存しているだけに過ぎないが、この東面破風にも ライオンと豹との合いの子の猫科の動物が 2 匹いて、その間にゴルゴンが描かれていたことを それでも十分に窺(うかが)い知ることが出来る。

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