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 アテネのアクロポリスの丘の上で出土した 少年の彫像(図版 89 から 91 まで)は、B.C.480 年の少し前に彫刻されたものであり、アナヴィソスで出土した 比較的初期の若者像(図版 57 から 61 まで)と この像とを比較すると、シビア・スタイル期と呼ばれるこの期間をずっと通して 新しい要素が彫刻に充ち溢れて来ていることが、完璧な許りにはっきりと現われて 看て取れる。B.C.6 世紀に作られた若者の像の方では、両足ともどちらも 足の裏をしっかりと大地に着けて立ち、まともに正面に向かった姿勢を採ってその身体が示されているが、より後期になって作られた人物像の方では これに反して、重心の懸かっている方の脚と 懸かっていない方の脚の間に、差別が付けられている。身体のそれ以外の部分にも、この動きが移って行っている。両側面は 相互に釣り合いが保たれた形で示されており、一方の腕と肩とを後方に引き 頭を右の方に向かって 自然に回している。各部分がすべて一緒になって、一つの新しい 有機的な関連を保って、繋がっているように見える。この人物像は、恰かも 中心にある核から指示を受け 中心にある核に凝集してゆくかの如く 自信たっぷりに突っ立っており、周りの空間の中に入り込み始めているのである。

 アクロポリスの丘の上から出土して来たこの少年の彫像に始まって ポリュクリタス Polyclitus(訳注 109)が作った槍を持つ人の像に到り、更には ル-ブル美術館所蔵のブロンズで出来た 贈り物をしている若者の像(図版 183)に到るまでの道は、その数十年の間に 他に比類するもののない程に大きく発展したコ-スを辿って来ているのであって、この贈り物をする若者像は、ここに図版として選ばれた写真の中で 男性の裸体の立像という形を採って表現されたものとしては、B.C.5 世紀のクラシカル期の極致ともなるものを 実例を挙げて説明するのに役立って呉れているのである。この像では 負担を懸ける側の器官と それを受け留める側の器官とが、調和の採れた平衡状態に置かれており、緊張とその緩るみとが 旨くバランスしている。像の中心点が 十分に強調されている。こういった風な作品にあっては、肉体の力も 精神力も すべてが、理想的に 一体となった状態に到達しているのである。

 B.C.500 年頃になると ギリシャの浮き彫りの構成の中にも亦 丸彫りの彫刻に持ち上がった変化と 旨く平仄(ひょうそく)の符合するような変化が見られるようになった。B.C.6 世紀末に作られたアリステイオン Aristion の墓碑(図版 71)では、兵士の像はきっちりと横向きになって 直立しており、輪郭線と背景面とを分ける境界もはっきりしていて、背景面は その上に描かれている人物像と同じように 異常な許りに密度の濃い具体性と迫真性とを具備しているのである。ア-ケイック期の浮き彫りの中にあっては、空間の錯覚とか 深さや幅の広さの錯覚とかを、その背景面が作り出すことはない。背景面と言うのは、その上に人物像が彫られている 堅い壁面のことであり、同時に又 その像が後方に拡がるのを制約しているものである。

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