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アクロポリス美術館
 
 

◎  No.0590 略々等身大の ランパンの乗馬者像

○ パロス島産の大理石で出来た像で、首と手のないトルソ torso(訳注 570)のこの部分像の高さは 81.5 cm.に達し、 1886 年に アクロポリスの丘の上のエレクテウム神殿の西で出土した。この像は 現存しているギリシャの乗馬者像の中で最古のものであって、 B.C. 6 世紀半ばのアッテイカ地方の彫刻作品の中では 最も重要なものの一つである。今日現存して ここで見られるものは、胴体の上部とその鬣(たてがみ)の痕跡の着いた 馬の頭部である。このトルソ像が出土した 11 年前に 高さが 29 cm.の有髯の頭部像が一つ出土し、 1875 年以降ル−ブル美術館に展示されていて、ランパンという個人の収集品の一部であったことから ランパン・ヘッドの名で呼ばれていた。この頭部像が乗馬者像の一部であることを 初めて認めたのは、イギリスの考古学者のハムフリ−・ペイン Humfry Payne であった。この美術館で 大理石の胴体にくっ付けられている頭部像は、焼き石膏で作られた 原物のコピ−像である。

○ 騎乗者は 直立した姿勢で 裸体で馬の背に跨がり、右手を拳に握って 太腿の上に置き、斜交(はすか)いに貫いた孔を通ったブロンズ製の手綱を その右手で執っていた。馬も人間も 力強くコンパクトに作られ、騎乗者の肩、背中、胸は 幅広く出来ていて、背中は どちらかと言えば扁平である。背骨を広い窪みとして 肩胛骨を単純な曲線で、そして肋骨の骨組みの端を はっきりしたオバ−ル形に表現している。

○ 人懐っこい微笑を浮かべた 個性的な顔は、生き生きとして表情に富み、両眉が掃くようにさっと走り、両瞼は鋭く刻まれていて その中にア−モンド形の眼がある。しっかりした両唇を僅かに窄め、頬から顎にかけて 小さいビ−ズ玉をびっちり敷き詰めた形で 表現された短い髯が、きっちり剃り込まれており、顔全体の表現は 大胆で、彫刻は率直である。美しい木蔦模様の花輪で飾られた 頭髪の描写が 非常に装飾的で、そのスタイルは、珊瑚状の巻き毛が 中央で両側に分けられ、耳の後ろではふさふさとして垂れ下がって、襟首の所で 水平にカットされてしまっている。彼は ネメアン・ゲイムズ Nemean Games(訳注 571)で勝利を得て、この花輪を獲ち取ったものであろう。この花輪が 頭髪の装飾的な表現を際立たせており、花輪の下からは ビ−ズ玉の形をして 先端が厚くS字型にカ−ルした髪が、額に 短く垂れ下がっている。口髭が着色して 加えられていたらしい。

○ 馬の頭が やや右に回っているのに対して、騎乗者の頭は これとは対照的に左方に回され、乗馬の行動をとって 幾らか前屈みになっている。この像とは逆向きの 同じような出来映えの像の断片が 僅かではあるが出土しており、この像と対になった騎馬者像がもう一つあって、グル−プ像を形成していたに違いないことを立証している。 2 頭の馬の頭が内を向いて曲り、二人の騎乗者の頭は外向きに曲がるというパタ−ンは、第 2 室の収蔵品 No.0575 の浮き彫りの形と符合している。蔦の花輪から判断すれば、この二人はどちらも 騎馬競走の勝利者であったに違いない。その上品な挙動とか 高貴で礼儀正しい表情とかは、この騎乗者が 傑出した高貴な家門の一員であったことを示しており、外見の風采、奉献されていた場所、更に像の芸術作品としての優秀さと気品とから見ても、僭主ペイシストラトスの二人の息子の ヒッピアスとヒパルコスの記念像であると推測されているのは、恐らく間違いないものと思われる。

○ ペイシストラトスの年代の B.C. 560 年頃に作られた 荘重で且つ印象的な作品で、アッテイカ地方の 名の知れない一人の 偉大な巨匠の手になったものであろう。騎乗者の身体は力強く 又角張った形をしており、頬の線が 力強い顎の方に向かって、斜めに走っている。頭部にも 同じような感じの表現が見られる。造型の細かい部分に 柔らかい 非常に装飾的な表現が見受けられ、力強さと柔らかさとが一体となって 荘重な作品を作り出している。その輪郭とか、その身体 特にその顔に見られる解剖学的な細部とかは、この彫刻家が騎乗者に 威厳を与えようと望んで彫刻したものであることを 明らかに示しており、その技法は ア−ケイック期の厳格さを連想させている。

○ この騎乗者像の特有な形の 繊細な構成と芸術的な髪型は、第 2 室の<ヘラクレスの神格化>を描いた破風(収蔵品 No.0009 + 0055)のゼウス神の像を想い起こさせる。同じ巨匠の作品と信じられている他の作品の中では キトンとペプロスとを着たコレ−の立像(第 5 室 収蔵品 No.0679)が 一際優れて重要な作品である。

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